最近、床下エアコンで床を暖める空調方法(?)の話を聞きます。
仕組みは市販のエアコンを壁に掛けて室内に向けて吹きだすのではなく、床下に向けて吹き出して床下空間を暖め、床下の空気を床に設けた吹出口から室内に吹き出すと同時に1階床自体を暖めるというアイデアです。
床暖房のように床自体を暖め、かつ床から暖かい空気が出てくると言うのはいかにも暖かそうなグッドアイデアな感じがします。
でもこのアイデアに関して素朴な疑問があります。
それは床を暖め、室内に暖気を送るためには床下空間全体が暖まります。
床全体が暖まると土間・基礎コンクリートも暖まります。コンクリートは熱容量が大きいので蓄熱効果が期待できメリットのように言われます。でもコンクリートだけが暖まれば良いのですが、熱は高い方から低い方に流れるので、その土間コンクリートに接した温度の低い土壌(地面)全体に熱が逃げて行ってしまします。コンクリートを一定の温度に保つためには一定の熱量を与え続けなければなりません。冬季に地面(土間)全体がエアコンからの吹き出し温度の≒40℃程度(床下の温度は25℃程度)に達することはまず考えられないので、エアコンから供給される暖かいエネルギーは、地面に流れ続けることになります。
でも損失するエネルギーの量がそれほど大きくなければアイデアとしては面白いのかなと思い、基礎周辺と地面から具体的にどれほどのエネルギーが損失するのかを計算してみました。
設定条件(各部位の熱伝導率とその厚さ)
①土壌(ローム質の場合)熱伝導率1.00W/mK 厚さ0.5m(凍結深度とする)
②基礎・土間コンクリート 熱伝導率1.6W/mK 厚さ0.15m
③基礎に用いた断熱材(押出法ポリスチレンフォーム3種) 熱伝導率0.028W/mK
④建物の大きさ8m×8mと仮定 基礎の立上がり高さ0.5mと仮定
上記条件から各部分の熱抵抗値、熱還流率を算出し、貫流熱損失を計算してみます。
①土間(土間コンクリートと土壌)からの熱還流率の計算
1÷{(0.5m÷1.0W/mK)+(0.15m÷1.6w/mK)}=1.686W/㎡K (熱還流率)・・・・(A)
②建物周辺の立上り基礎コンクリートからの熱還流率
1÷{(0.15m÷1.6W/mK)+(0.06m÷0.028W/mK)}=0.447W/㎡K (熱還流率)・・・・(B)
次に上記を使って、具体的にどれくらいのエネルギーを損失するのかを計算します。
①土間からの貫流熱損失(温度差1℃の時に1時間当たりに損失するエネルギー)
(A)×8m×8m=107.904W/K (貫流熱損失)
(B)×8m×4×0.5m=7.152W/K (貫流熱損失)
合計で貫流熱損失は≒115W/K となります。
この算出値を使って、熱は高い方から低い方へ流れるので、エアコンで暖められた床下空間と土間面の温度差を想定して逃げる熱量を推定します。
床下温度を25℃、土間の温度を15℃と仮定します。
115WK×(25℃-15℃)=1150W=1.15KW (定義は異なるがKは℃と同じと考える)
つまり1時間当たり1.15KWの熱が基礎と地面から流失していると考えられます。
これは暖房能力4.2KWのエアコンを運転していると仮定すると27.4%もの熱を損失していることになります。
上記損失率については、土壌の種類、断熱材の性能、床下や土間面の温度差等々の諸条件により差異はあると思います。しかし土間の温度が、エアコンからの吹き出し温度(床下空間温度)がを上回らない限り、熱の損失は必ず発生します。(熱は低い方へ流れる)
ではなぜエネルギーの損失に目をつぶって、床下エアコンを設置するのでしょうか。
考えられるのは、
①容易に床暖房の快適さを得ることができる。(輻射熱)
②建物全体を暖めないでも、床面からの直接的な熱伝導によって暖かさを感じさせる。
③住宅の断熱気密性能を上げなくても、暖かさを感じることができる。
以上のように床下エアコンの設置にはメリットもあります。でも最大の欠点はエネルギーのロスにあります。設置者は、電気代のロスは承知で、安易に快適さを求めるということなのでしょうか。それにしてもロスが大きすぎます。
私は、今までに4戸のモデルハウスを作って来ました。最初はQ値1.8W/㎡K程度から始まり、1.6、0.86、0.69W/㎡Kと作って来ました。その経験から暖・冷房時における快適さを味わうには、Q値1.0前後は最低必要だと感じています。北海道の次世代省エネ基準Q値1.6程度では、強力にエネルギーを消費しないと、少々うすら寒い感じがぬぐえませんでした。こんな場合にはエネルギーロスを承知の上で床下エアコンの設置もありかも知れません。
しかし、Q値を1.0前後に設定すると敢えてエネルギーをロスしてまで、床下エアコンにこだわる必要はないと思います。モコハウスでは基礎断熱と床下(フローリング裏面)断熱のダブル断熱を標準仕様としており、室内の壁掛けエアコンの運転だけでも床表面温度は21~22℃程度は保っています。因みにモデルハウスにおける床面温度と室内温度の差は0.5℃程度に収まっています。
(因みに、モコハウスでは断熱だけではなく、断熱性能において車の両輪に例えられる隙間の大きさを示す隙間相当面積C値も、全棟での測定を実施し、ほぼ全棟0.1㎠/㎡の圧倒的な気密度を持っています。)
また、床下エアコンの場合2階の床面や2階の室内温度はあまり上がりませんが、床・壁・屋根面全てを、熱抵抗の大きな断熱材で覆い、かつ気密度の高いモコハウスでは1,2階の温度差が常に1~2℃以内に保たれており、建物内ほぼ全域が快適な温度になっています。
たとえば、本日(2月12日午後5時)の外気温度は6℃、1階室内温度22℃、1階床面温度21.5℃、2階室内温度23℃、2階床面温度22.5℃です。壁面温度は床面とほぼ同じ温度です。
(熱源は1階に設置された深夜電力利用の蓄熱ヒーター。勿論エアコンでも出力が同じであれば同じ状況になります。
つまり、しっかりと必要な断熱・気密性能を保った家を作れば、暖める必要のない地面などに熱を奪われることなく、壁や窓など本体からの最小の熱損失と、換気による必要最小限の熱損失だけで省エネで快適な空調効果が得られるのです。
床下エアコンの場合、地面への熱損失を減らすために土間面を断熱することも考えられますが、モコハウスモデルでは熱電対による土間面の温度測定を行っていますが、夏場などの外気温度が32℃の時でも床面温度は23℃程度しかなく、床下で地熱利用の換気を行う場合には熱的に利用しないと損です。冬季も同じく外気温度0.7℃の場合でも16℃程度を保っており、折角の地面の熱を断熱材で覆って利用できなくするのはもったいないと思います。
*2014年2月23日ブログ参照
結論的に、快適な住宅を作るためには、熱の流れを真正面から正攻法で正々堂々と受け止めて対応するのが、地味ではありますが最良の快適な住宅を得る唯一の方法だと思います。良い住宅を作るには、良い住宅を作りたい信念と、高校生程度の物理の知識があれば十分です。
アイデアを用いることは勿論大切ですが、モコハウスではアイデアにとらわれることなく、愚直でも物理的な基本性能を大切にした家作りをしていれば、世の中がどのように変化してもいつでも余裕を持って対応出来ると思っています。
今、ほとんどのハウスメーカーや住宅会社が、太陽光発電やスマートハウス、HEMSなど住宅の基本性能に関係のない設備を、肝心の住宅に置き換えて売っています。
これでは日本の住宅の将来が思いやられます。
2013年10月1日に省エネルギー基準が改正されQ値に代わりU値で表示されれることになりましたが、U値は建物外皮の断熱性能の平均値を示すもので、Q値のように建物固有の熱負荷も考慮した建物全体の断熱性能は表示しません。
この改正は住宅性能の向上には明らかに後退です。
ついつい、ぼやきがでますが、日本の住宅政策は消費者の方を向かず、ほとんど一方的に企業側を向いているようです。これでは高額なローンを組んで家を買う若い消費者さんが可愛そうです。
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